会長 首藤勝次 より


【長湯温泉アルベルゴ・ディフーゾ構想とは】
 世界屈指の天然炭酸泉湧出地として知られるようになった長湯温泉。国民保養温泉地の指定も受けており,温泉で健康づくりを推進しようとする理念が着実に展開しているところである。厚労省からも「温泉利用型健康増進施設」として認定された御前湯・クアハウス・B&G体育館を連携させた医療費控除の健康づくりが認定された。
 温泉地の核となっているのは,『外湯めぐりの文化』と『飲泉文化』であり,公営の公衆浴場である御前湯と竹田市から指定管理を委ねられている(株)ホットタブレットが運営するクアハウス長湯,さらに大丸旅館の外湯であるラムネ温泉館である。これから施設利用者だけで年間25万人を数えるが,その経済効果はさらに地域浮揚に貢献しているのが現実である。 ウォーキングや飲泉,そして湯中運動など『温泉で健康づくり』を提唱してきた長湯温泉であるが,過去にはヘルスツーリズム大賞にも輝いた。特に注目を集めているのが『温泉療養保健制度』の導入で,これは平成元年から交流を続けているドイツの温泉地との情報交換や指導研究事業の成果であり,日本初の制度である。つまり,温泉地で長期滞在をし,ワーケーションやテレワークをしながら健康づくりをしたいという要望を後押しする制度で国民保養温泉地で3泊以上する滞在者に適用される。1泊につき500円の宿泊支援を受けられ,つまり10日間だと5,000円が自治体(竹田市)から支援される。この制度の特徴は,その保健制度の原資が入湯税で賄われている点である。観光などで竹田市の温泉付きの宿泊施設を利用する場合,一人に付き150円の入湯税を納めることになっているが,竹田市ではその入湯税の一部を保健制度の原資に充てるという画期的なしくみを考案し,実践しているところである。地域主権という言葉があるが,竹田市では議会の承認を経てこの制度を国や県に先んじて発案し,実践しているところである。
 その背景を活用しながら,炭酸泉の湧出地として名高い長湯温泉の中心地である湯ノ原地区で新たな試みを展開する構想のことを指す。

【構想の背景と期待できる効果】
 湯ノ原地区には,天満湯・長生湯・御前湯という3つの外湯(公衆浴場)があり,地域住民はもとより,入湯客や観光客にとって魅力的な社交場となってきた。その歴史は江戸時代にさかのぼるが,御前湯と長生湯は近代的に建て替えられ,年間20万人の入浴者を確保。その一方で天満湯は泉源が枯渇したものの,昭和初期から珍重されてきたラムネ温泉の復活に成功。ここでも,年間10万人近い入浴者が訪れるようになり,半径300メートルの小さな温泉村は復活の兆しを見せた。
 ただ,全国の例にもれず山間の温泉地は湯治場として栄えた時期と比較して,地域の高齢化や過疎化は著しく最盛の頃150戸ほどあった集落は現在その半数ほどに減り,空き家が目立つようになった。
 そこで,アルベルゴ・ディフーゾの湯ノ原版として,その空き家を分散した宿に活用し,長期に滞在できる施設(貸家)に位置付けて地域再生の道を拓くものである。これにより,これからさらに増えるであろう空き家を貸家や飲食店,アーティストたちの工房,さらには古本屋や骨董店などといった温泉地ならではの滞在者向けの空間によみがえらせる。こうすることによって,高齢化や過疎化の空洞化を逆手に取って活力を生み出すことができる。

 イタリアで発祥のアルベルゴ・ディフーゾは,分散型ホテルでの滞在を基軸にしたものである。ただ,それをコピーしたままで地域に導入しても無理がある。大切なのは,小規模のホテルを地域内に分散するとして,どういう魅力を創出できるかにある。イタリアでの成功例は,その地域の自然環境と空き家の魅力,さらにはレストランや土産品店なども含めて個性的な空間を作り上げることにあった,という点を見逃してはならない。 イタリアの成功事例を作り上げたのは巨額の遺産相続を受けた若者だった。3億円から4億円のお金を得た彼は,どんな社会貢献ができるのか。自分の人生に価値ある作業になるビジョンを求め続けてある集落に足を踏み込んだとされる。(島村菜津さんの著書から) 彼の理念とセンスが見い出した力のことを見逃してはならない。空き家になっている家の空間に,「改修すれば必ず人々は魅せられる」と確信した力のことだ。一流のセンスある改造計画が背景にある。私の友人であるアレックス・カー氏が四国の祖谷で空き家を改修して多くの外国人に注目されたケースに良く似ている。

『すみくら』のこと
 アレックス氏との出会いは私の市長時代だからもう10年ほど前になる。私が大きなヒントを得た時期である。つまり,その時からすでに竹田市における空き家の激増ははじまっており,だから『農村回帰運動』や『アーティストたちの誘致』による移住定住戦略と空き家活用に乗り出していったのだ。個人的には,転出したりで空き家になった物件の処理を依頼されることも多かったから,それらの物件を無償でいただいたり買い取ったりしてきた。そして,最低の補修を施し,近い将来の構想に備えてきたという経緯がある。加えて。ここがポイントなのだが,私は国や地方自治体が空き家対策に乗り出すとしてもその利活用が明確でなければ費用対効果は望めないということに気付いていた。そして,国はその解決策を財政が硬直している自治体に委ねるよりも柔軟に対応できる民間,それも地域貢献を目的に活動できる法人,たとえば一般社団法人やNPO法人などに補助をする傾向になるだろうと予測していたのだ。だから,市長を退任する1年前から民間人による法人組織を立ち上げた。それが、一般社団法人の竹田市健康と温泉文化・芸術フォーラムだった。今,私はその代表を務めているが,地域内に8件の空き家を確保した。無償譲渡を受けた物件や50万円,100万円と安価で譲ってもらった物件ばかりである。さて。長湯温泉の中核エリアは現在150人ほどが暮らす。この20年でその数は半分ほどになってしまい、さらにこれからの10年でその人口はさらに半減するだろうと推測できる。特徴的なのは,これまで以上のスピードで空き家が増えていくことである。普通ならば,空き家ばかりになって廃墟と化する温泉地のことに結び付けるのだろうが,私たちはむしろそのことを逆手に取って地域振興に結び付けることができると自信を持っている。なぜなら,その空き家を貸家や貸間のある家として活用できるからだ。この展望を私の後継者たちは「すみくら」(仮称)と名付けて構想を描いている。そして,無償で取得した旧郵便局を事務所にしてシステムを作り上げつつある。しかし,課題は少なくない。空き家の改修に係る経費のことだ。小さなホテル・旅館という位置づけにするのもいいけれど,私たちの構想は貸家と貸間。つまり,数日間から半年ほどを想定して自主管理してもらう。ベットなどの寝具やテレビ・冷蔵庫・空調などに加え,インターネット配信も可能するという程度が一番かと。これだと1日に3千円程度で提供できる。利用者は10日間で3万円だし,貸し付ける側も普通のアパート代を10日間で稼げるというわけだ。そして,肝心なのが外湯。幸いに,このエリアには透明な天然炭酸泉を満喫できるラムネ温泉館や日本3大公衆浴場とされる御前湯や200円で利用できる市営公衆浴場も完備されている。近くには有名な鍼灸院もあるし,すっぽん料理や鯉料理が得意な大衆食堂もあるという具合だ。小さいけれど,アカデミックな山岳図書館や川端康成・高田力蔵の常設展や日本を代表する彫刻家の展示室もある。

【国や地方自治体の支援】
 さて。これらの構想を支援する国の動きも本格化してきた。いま,私たちの計画を応援してくれているのは国土交通省の『空き家対策モデル事業』である。地域との協働事業を展望して,作家の森まゆみさんとイタリアのアルベルゴ・ディフーゾを紹介してくれる島村菜津さんのダブル講演会などのソフト事業の支援,さらには事務機器などのリース費用の補てんなどには10/10の補助金が充てられ,事務所改修などにも1/3が補助される。総額で500万円程度だが,これに加えて,中小企業庁の管轄する事業再構築事業の補助金などもある。一方,県や市町村にもそれぞれ支援事業が予算化されているが,取り組みに対する支援には温度差がありそうだ。敢えて申し上げれば,空き家対策の妙案を生み出す政策がないからだと考える。だからこそ,ビジョンを持った民間団体の知恵に委ねてみるのもいいのではないかと提案したい。いずれにしても。小さな温泉地ながら,日本初の温泉療養保健制度を確立し,ヘルスツーリズム大賞も獲得してきた長湯温泉である。ドイツとの30年以上に及ぶ温泉文化交流を活かして,地域特性を逆手に取った戦略で先進的、先導的な挑戦をしている温泉地が,外湯めぐりの施設や飲泉施設を,そして天然炭酸泉を掛け流しで活用しているクアハウスを世界に誇る奇跡を今一度実現させたいものだと秘かに期待するものである。

組織・役員

役職 名前
会 長 首藤 勝次
副会長  
事務局 瀧下 珠美

長湯温泉アルベルゴ・ディフーゾ協会は2023年5月に発足した任意団体です。
随時会員申し込みを受け付けております。(詳細は事務局にお問い合わせください。)